【まとめ】ハタハタとは | 秋田出身の魚屋が徹底解説!

食と、東北と、編集長

佐藤仁

ハタハタとは? | 秋田出身の魚屋が徹底解説!

ハタハタという魚をご存知でしょうか?ハタハタの産地は北海道、秋田県、石川県など多岐に渡りますが、ハタハタで一番有名な場所は秋田県です。秋田県ではハタハタは県魚に指定されるほど、昔からその食文化が深く根付いており、現在も「冬といえばハタハタ」というくらい秋田には馴染み深い魚です。今回はそんなハタハタの生態や分布、歴史、食べ方など徹底解説していきます。

※本記事はあきたとさかなの再編集改訂版となります。

秋田出身の魚屋さん

YouTubeチャンネル「あきたとさかな」より

今回はハタハタが大好きで毎年必ず秋田県産ハタハタを必ず食べているという秋田出身の魚屋、佐藤 仁さんにハタハタに関する話を伺いました。どこかで聞いたことがある名前ですって?そう、この食と、東北と、編集長の佐藤仁(私)です。

実は私、本メディアの編集長以外にも東北地方にある食品小売業(スーパー)の魚屋さんもやっております。大学時代から水産業に興味を持った私は、大学では宮城県閖上地区のアカガイDNAの研究なんかをやっていました。もちろん今現在も魚が大好きで、大好きな東北地方で、大好きな水産業に関わり続けています。そんな私の魚愛も込め、今回は地元秋田県の県魚であるハタハタの解説をしていきたいと思います。

ハタハタという名前

まずは「ハタハタ」という名前について詳しく見ていきましょう。「ハタハタ」は下記のように表記されます。

・和名:ハタハタ
・英名:Japanese Sandfish
・学名:Arctoscopus japonicus

3種類の名前が出てきましたが、簡単に説明すると

・和名:日本語の名前
・英名:英語の名前
・学名:国際的に統一されている生物の学術上の名前。ラテン語。イタリック体で表記する

となります。基本的に、この名前はすべての生物に共通して存在します(近所にいる虫や鳥にも和名・英名、学名が実はあるんですよね)。普段私たちがよく使っている名前は「和名」にあたります。

ちなみに英名である Japanese Sandfish は、ハタハタが砂に潜る習性を持っているためにつけられたそうです。

分類

この世に存在する生物は何かしらのグループに分類されています。どのように分類されるかというと

界→門→綱→目→科→属→種

の順で細かく分類されています。ハタハタの場合は、

動物界→脊索動物門→脊椎動物亜門→条鰭綱→スズキ目→ワニギス亜目→ハタハタ科→ハタハタ属

となります。動物界というグループの中にある脊索動物門というグループ。その脊索動物門というグループの中にある脊椎動物亜門というグループ。その中にある…の繰り返しで小さなグループに分かれていきます。同じグループに所属する魚はその性質が似ている場合が多いため、「あ、この魚はこの魚と同じグループだから白身魚なのか!」「もしかしたらこの魚はあの魚と同じような味がするのでは…?」といった予測ができるようになります。あなたの食生活にもちょっとだけ役に立つときが来るかも(?)

分布

冒頭で少し触れましたが、ハタハタは秋田県以外にも北海道や石川県でも漁獲されます。ハタハタは日本海、そして北海道・サハリン島・カムチャッカ半島の一部にも分布します。

手書き地図。雑でごめん…。

よく「産地で味は変わるの?」と質問されますが、基本的な味は変わりません。ただ、脂ののりや身質に差はあります。日本海でとれるハタハタは産卵時期付近ですので、身よりも卵・白子が美味しいです。一方、北海道・サハリン島・カムチャッカ半島でとれるハタハタは、海を大きく移動せずに各地域でエサをたくさん食べているので、身が美味しくなっています。ぜひ機会があれば食べ比べてみてください。

分布と系群 ※難しい内容なので飛ばしてもOK

ハタハタは住む地域によって、系群と呼ばれるグループに分けることができます。

日本海北部系群:青森県沖から石川県能登半島沖を回遊し、秋田県沿岸を主産卵場にする。
日本海西部系群:朝鮮半島を主産卵場とし、鳥取県や島根県沖まで回遊する。
石狩群・噴火湾群・日高群・釧路群・根室群・網走群:北海道にある6つ系群。あまり大きく移動はしない。
その他:富山湾や若狭湾にも回遊範囲の狭い地域群が存在。また太平洋側でも青森県、岩手県、宮城県、茨城県で漁獲記録があるが、その量は極めて少ない。

この系群の説明が少し難しいので、ちょっと補足説明をします。ポケモンを例にしてみましょう。まず、ピカチュウとコイキングがいます。明らかに違うポケモンですよね。これは別の「属」に分類されているからだと考えられます(先ほどの分類のお話です)。さて、次に草むらを歩いてピカチュウを探しましょう。

名称未設定

ピカチュウが現れました!同じピカチュウなのですが、生息する草むらによっていろいろなピカチュウがいますね。同じ「ピカチュウ」という種であっても、目の形が違っていたり、耳の形が違っていたりします。

・目が特徴的なピカチュウの大群⇒1つの系群
・耳の形が少し変わっているピカチュウの大群⇒1つの系群

と考えます。これが系群です。まとめると

  • 「ピカチュウ」と「コイキング」は違うポケモン⇒「界→門→綱→目→科→属→種」の考え方でされる分類
  • 同じ「ピカチュウ」という種にもいろいろいる。⇒系群の考え方でされる分類

という感じです。少々難しいので参考までに。

形態(体の形)

・胸鰭(むなびれ)が大きい
・上顎(うわあご)よりも下顎(したあご)が突出し、口が上向き
・臀鰭(しりびれ)が長い
・背鰭(せびれ)が2つある
・鰾(うきぶくろ)と鱗(うろこ)はない
・オスには大きく目立つ泌尿生殖突起というものがある

生態(ハタハタの一生)

ハタハタはどのような一生を過ごしているのでしょうか。その生態について見ていこうと思います。その前に1つ。ハタハタは1年の大半を水温2℃以下の場所で過ごし、水温13℃以上では生きていくことができません。海水温は夏には高くなり、冬には低くなりますが、水温の変化がハタハタの一生に大きく関わります。

産卵

まずはハタハタが生まれる冬からスタート。ハタハタの産卵は11月下旬から12月にかけて行われます。この時期、秋田県沿岸部の水温低下に伴いハタハタは水深5mよりも浅い藻場(海藻がたくさん生えている海域)に
やってきて産卵を行います。秋田県沿岸は国内最大級の産卵場となっておりますが、その理由は下記の通り。

  • 秋田県沿岸は深場から浅場への距離が近く、水温の変化に迅速に対応できる(浅い場所が暑くなったらすぐに冷たい深い場所に移動できるということです)。
  • 岩場に卵を産み付けるホンダワラ類(スギモクやヤツマタモク)などの大型海藻がたくさん生えている。

だから秋田の沿岸ではよくハタハタが獲れるんです。そして産み付けられた卵は翌年の2月頃に孵化します。

孵化

孵化したハタハタの体長は約12mmで口がしっかりとしているのが特徴です。他の多くの海水魚は体長10mm以下で、口も開いていない未発達な状態で孵化するためハタハタは非常に特徴的であると言えます。

孵化直後の体は大きく泳ぎもしっかりとしているのですが、孵化までに約2ヶ月かかります。これは他の魚に比べて非常に長いのです。そのため、卵の時期に天敵に襲われるリスクが高いといえます。

だからこそ、天敵が近づきにくい環境である「荒波日本海」と呼ばれる秋田の海は産卵に非常に適している環境だと言えます。

餌を食べ成長

孵化後、4月上旬頃までに男鹿半島の南北に広がる海底勾配のなだらかな浅い海域で活発に餌を食べて成長します。この時期の秋田では大量の雪解け水が川から海へと流れ込みます。この雪解け水には山の栄養塩がたっぷり。この栄養塩によってプランクトンがたくさん集まり、いい餌場になるんですね。

浅場から深場へ…そして回遊

5月以降は水温が上昇するため、水温12度以上の場所を避けるように徐々に深場へと移動します。6月頃には水深200m付近に分布するようになります。その後、石川県能登半島沖にかけ、水深200mよりも深い海で回遊しながら生活します。成長の早い個体は翌年の秋に産卵準備が整い、秋田県沿岸の水温低下とともに再び産卵にやってきます。そして産卵を行い、ハタハタが生まれる。このサイクルでハタハタの生活史は成り立ちます。

なお、ハタハタの寿命は4年と言われています。産卵した後に力尽きて死んでしまう個体が多いようです。

私たちが食べているハタハタは…

私たちが食べているハタハタはどのタイミングで漁獲されているのでしょうか。それは、産卵のタイミングとなります。体内に卵(いわゆるブリコ)を抱え、浅い場所にやってくる11下旬〜12月のタイミングで漁獲するのです。なお、いつも食卓で見かけるハタハタは生まれてから3年目の個体がほとんどです。

最古のハタハタ漁

ここからは少し着眼点を変え、漁業の話をしたいと思います。

時代は遡り「慶長」の時代。西暦でいうと1596年〜1615年。この時期は安土桃山時代にあたります。日本に残っているハタハタ漁最古の記録は『栗山二蔵肴算用状(秋田家文書)』に記されています。

当時秋田藩主であった佐竹氏が国替えになる間際の慶長2年〜4年、男鹿・能代方面からサケ・タラ・ハタハタなどの水産物が運ばれた記録が残っております。また、同じ秋田家文書の「大高甚介諸役算用状」には、八森村(現・八峰町)にはハタハタの船が39隻あり、1550桶のハタハタを上納していたという記録も残っているみたいです。

これが最古の記録にはなるのですが、いきなりこの量を漁獲できるとは考えられないためこれよりも以前からハタハタ漁を行っていたと考えられます。秋田でのハタハタの歴史は本当に長いものであることがわかります。

どこでどのように獲られているの?

現在のハタハタの主な漁場は下記の通り。

  • 男鹿市(北浦漁港・船川漁港)
  • にかほ市(金浦漁港・象潟漁港)
  • 山本郡八峰町(八森漁港・岩舘漁港)
  • 能代市(能代漁港)

漁獲方法はさまざまで、

  • 底曳網漁業:文字通り船で網を曳きながら魚と獲る方法です。
  • 定置網漁業:海の定位置に網をセットし、魚が入るのを待つ方法です。
  • 刺網漁業:魚が網に刺さったところを漁獲する方法です。刺さった魚を外すのが大変らしい。

などがあります。それぞれの地域にいる漁師さんたちが、海の地形やその日の天候などに合わせてさまざまな方法でハタハタを漁獲するようです。

漁獲量と歴史

ハタハタは一体どのくらい獲られているかみなさんご存知でしょうか?ここでは近年の漁獲量を振り返りながら話を進めていきたいと思います。

1960年台

この頃はハタハタの漁獲量が非常に多かった時期。1963年〜1975年の間には毎年10,000tが漁獲されていたようです。

1976年

この年から急激に漁獲量が減少します。漁獲量は、漁業者の数や漁具の性能、漁法の変化により変わるのですが、
単純に資源の量が減ったと考えられています。簡単に説明すると、海で泳いでいるハタハタの数が単に減ったから
獲れなくなったということです。

1991年

減りに減ったハタハタの漁獲量はついに70tまで減少。かなり減っていることがわかります。

1992年

そしてついに1992年9月〜1995年9月の3年間ハタハタ全面禁漁となってしまうのです。県魚にも指定され、秋田県民が大好きな魚が全面的に禁止になることは異常事態です。

1995年

1995年10月よりハタハタ漁が解禁されました。ただし、秋田県は「漁船や漁具の数を減らす」「漁獲量制限」など厳しいルールを設けて解禁としました。

現在

現在は年間2,000〜3,000tまで漁獲量は回復しています。しかしながら、以前に比べると大幅に減少しております。

禁漁と私たちの食卓

前述にもある通り、秋田県ではハタハタ全面禁漁という措置がとれらた経験があります。こんなにも昔から伝統に行われてきたハタハタ漁が、全面的に禁漁になってしまったことの意味を私たちはこれからも忘れずに考え続けていかなければなりません。普段、当たり前のようにお店で見かけ、当たり前のように食べることができるものも、いつか当たり前ではなくなる可能性だって十分あるんです。

ハタハタという生き物に感謝し、ハタハタを食卓に届けてくれる漁師さんや関係者の方々に感謝し、ハタハタの資源を管理してくれている県の方々に感謝する。「ハタハタを美味しく食べる」ことがたくさんの人の力で成り立っていること。そしてこのことを後世に伝えてハタハタをこれからも食べ続けていく。

ハタハタを食べるという秋田ならではの食文化をこの先ずっと継承していくには、きっとそんなことが大切なのかなと私は思っています。 

ハタハタの下処理

さて、それでは感謝の意を込めてハタハタを食べていきましょう。その前に下処理の方法を簡単にご紹介。ハタハタの下処理は簡単。

①水で表面を軽く洗う

②エラを取る(指で簡単にとれます)

以上です。「内臓は取らないの?」と思う方もいると思いますが、ハタハタは卵・白子と内臓が非常に密接にくっついており、内臓を取ろうとすると美味しい卵・白子部分も取れてしまいます。内臓部は小さくて食べてもあまり苦味を感じないので、そのまま食べてしまうのがおすすめ。苦手な方は加熱後に除くのが良いかと思います。

ハタハタってどうやって食べる?

焼き魚

個人的No.1料理。頭も骨も丸ごと食べるのが通。

煮魚

煮るときは味どうらくの里を使いましょう。

唐揚げ

しょっつる鍋

ハタハタの鍋。味付けには秋田県の伝統的な調味料であるしょっつる(ハタハタの魚醤)を使用。秋田の名産の1つ。

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ハタハタ寿司

知る人ぞ知る秋田の名産品。ハタハタを使用した”なれずし”。日本酒にぴったりの肴です。

三五八漬け

塩:米麹:米=3:5:8の割合で作った漬け床に漬け、焼いたものが「三五八漬け」。自宅でも作れちゃいます。